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サウンドフェスタ 2019 - サウンドフェスタ 2019で注目した製品 -まとめ-
今回、サウンドフェスタ2019で大変おもしろく感じたのは、KORGの低電圧で動作する真空管ユニットNutubeとTOAのQ-ME-50proという空芯コイルとコンデンサー、抵抗によってネットワークでスピーカーの周波数特性を調整するシステムが出品されていたことです。

KORGの低電圧で動作する真空管ユニットは、KORGが新たに設計した真空管の双三極管をモデルにした真空管ユニットです。
普通の真空管を動作させるのに数100ボルトの電圧をかける必要がありますが、KORGの真空管ユニットは、トランジスタ半導体のように数10ボルトの電圧で動作させることが可能です。
KORGの真空管ユニットNutubeは、また高い電圧の必要な真空管では考えられないぐらい高寿命の製品となっています。
アマチュア、プロ問わず真空管アンプビルダーやレコーディングの真空管マイクロフォンなどを制作に期待されていいます。
KORGの真空管ユニットを使用して、様々に製品を開発することが可能です。

Nutubeの低い動作電圧の特徴を利用して、真空管アンプのプリアンプ部の前段に使用を考えるアンプビルダーも多く存在していると思いますが、真空管アンプビルダーからするとKORGの真空管ユニットは決して完全に置き換えられるようなパーフェクトな製品とは言えず、よく真空管前段に使用される低内部抵抗の真空管に比べKORGの真空管ユニットNutubeは、内部抵抗が高いので広い周波数特性を確保するためには、負帰還を上手に利用するなどの工夫が必要です。
しかし、現在のディジタル機器全盛期の時代にKORGの真空管ユニットNutubeの登場は、オリジナルティが優れ、ユニークで大変有意義であると思いました。
このKORGの真空管ユニットNutubeによって、今後のプロ・オーディオ機器、マイクロフォンなどのに使用された優れた製品が多く登場することを期待しています。
次に大きく注目したのは、TOAのモニタースピーカー、Q-ME-50proのネットワークボックスです。
Q-ME-50proというスピーカー本体は、スタジオモニタースピーカーとして、勿論TOAの技術を投入して製作されていると思いますが、外観的には普通のタイプで、あまり特徴のあるものではないと思います。
モニタースピーカーQ-ME-50proのネットワークボックスは、空芯コイルやコンデンサーや抵抗を多数利用した純アナログ制御によって、周波数特性をフラットに調整することで最適なモニターリングを実現できるように工夫された製品です。
現在は、モニタースピーカーの周波数特性を整えるのはディジタルイコライジングを利用するのが簡単なので、ほとんどがディジタル・プロセシングによって制御されていいるのが普通です。
しかし、TOAのモニタースピーカー、Q-ME-50proのネットワークボックスは、あえてアナログ回路のコイルやコンデンサー、抵抗に拘り周波数特性を整えるシステムを構築しているのが特長となっています。

ディジタルのDSPユニットで周波数特性を整えるのに比べ、コイルやコンデンサーを使用したアナログシステムは大掛かりになり、大変贅沢なシステムだといえます。
TOAのモニタースピーカー、Q-ME-50proのネットワークボックスは、現在のディジタル機器が絶頂期の時代に、純アナログで制御を求めた大変ユニークで楽しい製品だと思いました。

今回、サウンドフェスタ2019で注目した製品、KORGの真空管ユニットNutubeとTOAのモニタースピーカー、Q-ME-50proのネットワークボックスは、現在のディジタル全盛時代に、一見、昔を求めたような古臭い感じがするように思われるかも知れませんが、私は、『これこそ最先端技術ではないだろうか!』 いや 『機器メーカーが、やっと気づいてくれた!』と思った限りです。
その理由は、私自身、ディジタルシステムの音質や音の個性などに対して、ディジタルと言うものの限界が見えてきたように感じていたからです。
確かにディジタルは、伝送やノイズもなく劣化のない記録や複製などには、アナログでは考えられないぐらいの性能を有しているのでノイズなどで音質が問題になることはほとんどなくなりました。
しかし、ディジタルではアナログのような音や音質に説得力などを感じることができません。
昔のアナログ時代の名盤レコードなどを聴くと、音・音質以上に音に説得力、言葉では表せない心を動かすものがあります。
しかし、ディジタルでは、ノイズなどもほとんどなく、音・音質が大変優秀であることは間違いないのですが、アナログのように人の心を揺さぶるような音には至りません。
ディジタルにはアナログにあるような高度な音質や個性というものを感じることの限界があるように思います。
そのアナログにあるような高度な音質や個性を求めて、ディジタル技術を駆使する方法もありますが、ほとんどがアナログもどきという空しい結果に終わってしまいます。
今回のKORGの真空管ユニットNutubeとTOAのモニタースピーカー、Q-ME-50proのネットワークボックスは、アナログというものの重要性を機器メーカーが気づきだしたのでないかと感じています。
本物を求めるアーティストたちにとっては、音楽に合理性やコスト以上に自身の最高の芸術性を求めることでしょう。
それが、アナログではないだろうかと考えます。
私は、多数あるメーカーがアナログの素晴らしさに気づかされる時が、必ずくると信じています。
かつてプロのアーティストが絶大の支持をした最高のアナログコンソールのneveのような機器が、プロのアーティスト側から求められるときは直ぐそこまできているように感じられました。
このアナログの重要性をいち早く気づいて、現在に純アナログ製品を確立した機器メーカーは、多くのプロのアーティストたちの要望から、プロのオーディオ界を一世風靡する存在のメーカーになるのではないかと思います。
今後、多くのプロ・オーディオ機器メーカーにアナログ機器の重要性に気づいてもらい、特に日本のオーディオ機器メーカーから優れたアナログ機器を世界へと波及させて、日本のメーカーに元気を取り戻して欲しいものです。
おわり