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DAT登場前のディジタル録音
ベータビデオとVHSビデオの次の世代のビデオとして8ミリビデオというビデオレコーダーが登場してきました。
SONYはベータビデオとVHSビデオの規格競争になって統一化ができなかったのを反省して、8ミリビデオという規格を統一化を目指して行動していたのですが、ここでも他の規格(VHS-C)が登場したので完全統一することはできなく、何処か中途半端なビデオになってしまいました。
8ミリビデオは、HIFiモノラル音声が基本でしたが、高級機種になるとHIFiステレオで記録できる製品が登場してきました。
そして8ミリビデオで最も高級な最高機種の製品になれば、HIFiステレオ+PCMステレオ音声で記録できる製品がありましたが、一般にほとんど知られない製品でした。
高級8ミリビデオのPCMディジタル録音が、DAT以前に一般のオーディオファンが比較的簡単にディジタル録音ができたという製品です。
しかし、8ミリビデオのPCM録音は、8ビットを使用していたので、サンプリング周波数が低く、CDの16ビットに比べて性能が遥かに低かったので、オーディオファンを満足させる製品にはなりえませんでした。
私は、当時家庭用のビデオカメラの最高機種で音声がPCMステレオ記録できるSONYのCCD-V5000 PROというものを所有しておりました。

実験的にCCD-V5000 PROで音楽を録音したことがあります。
実験は、内臓ステレオマイクだったのか外部マイクを使用したのか覚えていませんが、少しハイ上がリ気味な音で音質的にCDを録音できるクオリティではなかったと記憶しています。
この製品は、音声8ビット記録に無理をしてFM音声並みに周波数特性を上げているのですが、CDを情報を記録するには無理があったのかも知れません。
数少ないPCM録音ができる8ミリビデオとして期待されるオーディオファンがいるかも知れませんが、PCM録音が出来る8ミリビデオに音質への過度の期待は禁物だと思います。
このような理由からだと思いますが、8ミリビデオのオーディオ単体機種は、市販されることはありませんでした。
8ミリビデオのPCM音源は、音楽を録音するのにはクオリティの問題があるのですが、メタルテープ使用している8ミリビデオテープの自体の性能は否定できるものではありません。
8ミリビデオテープは、後にプロ仕様の8トラックのマルチトラックレコーダーとして利用されていることも考えれば、メタルテープを使用している8ミリビデオテープの性能への可能性は大きく、8ミリビデオテープを使用したリニアPCM録音のできるオーディオ機器としての機器が登場しなかったことが大変惜しまれます。
DATが8ミリビデオテープにならなかったのが残念だった
ディジタル録音ではMDなどディスクを利用した録音・再生ができる製品がありましたが、規格上CDの性能には及ばず、オーディオファンから完全に支持を得るまでには至りませんでした。
本格的にCDと同等あるいは、それ以上で録音・再生できるオーディオ製品が登場したのはDATだったと思います。
それ以前にビデオデッキを利用してディジタル録音する方法もありましたが、ビデオテープが大きく、製品がかさばるので、マニアックなオーディオファン以外からは敬遠されていましたが、DAT(Digital Audio Tape)は多くのオーディオファンに満足できるスペックとコンパクトさが魅力でした。
私が、カセットテープの半分ぐらいの大きさのDATのテープの初めて見た時、その小ささに驚かされました。
DATテープの小ささには、感動することはありませんでした。
それよりも。こんなに小さくすると長時間記録するにはテープの速度を大変遅くしないといけないので、ドロップアウトしやすいのではないかと思いました。
製品には相当なメカニズムの精度が必要なのと、シビアな調整が要求されるのではないかと考えました。
いかにも小さいだろう!これがハイテクだ!というような匂いがしてきて、私はDATテープの大きさが気に入りませんでした。
私は、小さくハイテクに見える製品よりも長期保存が可能な信頼性のある製品を好みます。
信頼性を下げてテープの大きさを小さくするぐらいなら、少し大きくても信頼性と技術的に余裕のある大きさにして欲しかったものです。
プロの世界では、信頼性の面からDATテープをメインに使用することは難しいように思いました。
当時、私はDATテープの大きさは、カセットテープか8ミリビデオテープの大きさで十分ではないかと考えていたものです。
案の定、私が予想したどうりDATの最大の課題はドロップアウトでした。
DATテープを8ミリビデオテープと同じ規格にしていたら、普及している8ミリビデオテープが使え、特殊なDATテープを新たに生産する必要もなく合理的だったのではないかと思います。
8ミリビデオテープであれば、大きさに余裕がありテープを薄くする必要もなく、大幅に信頼性を向上させることができたでしょう。

DATの信頼性に余裕ができれば、プロの録音機材として、これまでのUマチックビデオとPCMプロセッサーの代わりとして使用できたのですが、信頼性の面からDATがUマチックビデオとPCMプロセッサーに代わる時代がやって来ることはありませんでした。
プロの世界では、信頼性が必要なので、ドロップアウトの危険のあるDATテープをプレスマスターとして使用することはできなかったものだと思います。
しかしDATの音質の良さと録音データの移動しやすさが、小さいDATテープで済ますことができる便利さから、多数のスタジオには導入されて使用されていました。
DATの音質の良さはプロにも評価されており、視聴確認用には主にDATが使用されていたようです。
DATの規格を8ミリテープにしていれば、テープの走行速度に余裕ができるのとテープを厚くすることが可能になる為、ドロップアウトの危険を大幅に減少させることができたと思います。
DATのメカニズムの精度にも余裕ができ、普及機種の大幅なコストダウンも可能になったかも知れません。
また現状の8ミリテープを利用できるとことで、8ミリテープを生産していたテープメーカーが新たに設備投資する必要もなくなり、DATの普及の促進にもなったと思います。
それ以上に8ミリテープを利用するメリットは、次世代のディジタルレコーディングとして高い信頼性を確保することできた可能性があります。
プロが使用できるような特殊な高信頼性のある8ミリテープを製作することで、8ミリテープを利用したプレスマスターにも使用できたかも知れません。
DATは、メーカーが、これでもかというハイテク技術を見せびらかせるようになってしまい、テープサイズを無理をして小さくして規格したゆえに、テープ性能維持の長期安定性を犠牲にしてしまった感じがあります。
その為に、一般オーディオ、プロオーディオでメインの機器になることなく、オーディオ機器として少しマニアックな存在になってしまった感じがあります。
DATの音質が大変良かっただけに、大変惜しまれます。
新しいオーディオを規格するメーカーは、現在のことだけでなく長期の使用に耐ええる耐久性のことや、もうひとつ余裕のある規格を考えて欲しいものです。
もしDATが、8ミリテープの規格で製作されていたならば、現在でも8ミリテープを利用して録音しているオーディオファンが多くいたのではないかと思います。
DATに8ミリテープを利用して規格化しなかったことが、現在でも残念に思えてなりません。
CDプレーヤー試作機『ゴロンタ』 つづく