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良い音とリアリティのある音は異なる。
私が『良い音とリアルな音は異なる』というオーディオにとって非常にに難解な課題にについて掲載しようと考えた理由は、現在、新しく発売されている高音質CD(SASD)やハイレゾ音源などの音に対して疑問を持っているからです。
このオーディオの疑問が解消しない限り、私にとって今後のオーディオの発展に期待できません。
アナログ・オーディオが主体であったオーディオの時代に比べ、ディジタル・オーディオ時代の現在ではオーディオで高音質について語ることは大変難しく思います。
アナログであれば、ダイナミックレンジ、周波数レンジ、SN比、ワウフラッターなどのスペックである程度、音質が学問的に語ることが可能でした。
しかし、現在のようなディジタルがオーディオの主体の時代では、CDが発売されて以降アナログ時代に苦労したスペック上の問題は、すべてクリアしています。
近年スペック上では間違いなくオーディオは、高音質になりましたが、このスペック的な高音質だけを見つめていると
『本質的に良い音』
というものが理解しづらくなってしまいます。
まず考えなければならないことは、
『高音質とリアリティのある高音質は異なる』
ということを認識しなければなりません。
『高音質とリアリティのある高音質は異なる』という問題を考えることで、まずリアリティのある音について考えていきたいと思います。
リアリティのある音とは
リアリティのある音とは、実際の音と間違えるような音をいいます。
例えば、人がその場で会話しているような音で、スピーカーから『こんにちは!』と聴こえてきると、『ドキっとして、誰だろう!』振り向いてしまうような音です。
そのような音には低音の余分な空間が付帯していないので、非常に生々しく聴こえ音にリアリティを感じます。

SACDやハイレゾ音源では、どのような音でも奇麗な空間から音が出てくる感じがあり、 音としてはたいへん耳あたりの良い音で再生されるので高音質であると思いますが、その耳あたりの奇麗な空間が逆にリアリティを感じさせない音になっているように思います。
自然界の音には、美しく柔らかく奇麗な音も鋭く突き刺さってくるような音もあり、それが再現できてこそリアリティのある音だといえます。
私がSACDやハイレゾ音源の音の不満は、美しく柔らかく奇麗な音の再現に偏っているように聴こえるからです。
SACDやハイレゾ音源の高音質は認めるものの、リアリティのある本質的な高音質とはいえないと感じられるからです。
このリアリティのある音の問題は、SACDやハイレゾ音源のスペック的にあるのではなく、SACDやハイレゾ音源で製作する側の感性になるかもしれません。
現在のオーディオで高忠実再生は不可能かもしれませんが、リアリティのある音を求めなければ音の基準になる音というものがなくなり、良いオーディオは製作できないだろうと思います。
オーディオでいう高忠実再生
オーディオで自然界の音を忠実に100%再現すること(高忠実再生)は、物理的な限界あるので不可能だと思います。 現在のオーディオの方式が画期的な方法で変わらない限りは、今後もオーディオで高忠実再生はできないでしょう。
オーディオで高忠実再生が不可能だからといって、頭ごなしにオーディオに高忠実再生を目指すことを否定することはオーディオに音質の進歩を阻害しかねませんので感心することはできません。
オーディオで高忠実再生が出来なくても、高忠実再生を目指す努力自体がオーディオに必要だと思っています。
オーディオで高忠実再生を目指すことは良いオーディオ製品を生み出すための遠道になりますが、最終的には一番近道の方法だと考えています。
SACDやハイレゾ音源の音では、オーディオがわかりにくい。
SACD、ハイレゾ音源の音場が広く滑らかで美しい音は、オーディオ機器の性能差をわかり辛くさせてしまいます。
SACDやハイレゾ音源の特徴のある音は、どのようなオーディオ製品でも高音質で再生することが出来ます。
音場が広いSACDやハイレゾ音源の音は、歌手の声(口)が広がって再生されるので、どのようなスピーカーでもそれなりに高音質で再生されます。

SACDやハイレゾ音源の音が、どのようなオーディオ機器でも、それなりに高音質に再生され、常に80%ぐらいの高音質で再生されるるという特徴があり、各オーディオ機器の差を出にくくしてしまいます。
SACDやハイレゾ音源では、どのようなオーディオでも常に80%ぐらいの高音質で再生されるという良さが、かえって品質の高いオーディオ機器と普通の品質のオーディオ機器の差が見分けにくくします。
例えば、SACDやハイレゾ音源では小型スピーカーでも高級大型スピーカーでも音が良く再生されます。 これはBGMサウンドが、どのスピーカーで再生しても良く再生されるということに似ています。
SACDやハイレゾ音源が、どのスピーカーで良い音で再生されるので、スピーカーの性能の差を解り難くしてしまうということです。
あまり出来の良くないスピーカーと技術的の集大成の最高級スピーカーの差はあるものの、とてつもない差を感じさせることが出来にくくなります。

これでは、お金をかけて真面目にスピーカーを追及したメーカーが損をして、安価に適当にスピーカーの形に仕上げたメーカーが得することになります。
この状態が進んでいくと、真面目にスピーカーを追及するメーカーがなくなってしまいます。
現に今日のオーディオの状況をみていると、オーディオファンからすればかなり残念な方向へ進んでいっているように思います。
現在、一部の高級オーディオ・ブランドはブランドイメージを利用しただけのスピーカーを製作して、内容からして価格だけは超高価に販売されている製品も多くあります。
それでは、オーディオファンがたくさんのお金をつぎ込んで、一流のオーディオを求めても本質的に良いオーディオの入手が難しくなってしまいます。
このような状況では、オーディオファンが損するだけでなく、オーディオ機器の開発にも影響しオーディオ・メーカーが良いオーディオ機器を製作することが難しくなっていきます。