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NS-5000への心配
NS-5000への心配は、最近の日本の企業の全体にいえることですが、NS-5000に搭載されているスピーカーユニットなどは、日本国内(made in Japan)で生産しているのだろうかという疑問があります。
NS-5000は、大変高価なスピーカーといえます。
これぐらい高価なスピーカーであれば、全てを日本国内で生産であって欲しいものです。
Y社のホームページを調べても、NS-5000が何処で生産されているのか知ることはできません。
NS-5000のキャビネットは、国内生産であるとは思いますが、スピーカーユニットなどに関しては、何処の国で生産されたのか分からない状況です。
もし、NS-5000のスピーカーユニットを海外のユニットメーカーに委託して生産しているなら、はっきりいってNS-5000は高価すぎるように思います。
このようなことが心配になるのは、現在の日本の工業の事情があるからです。
1980年代であれば、日本の高級スピーカーはインフォメーションに何も記載されていなくても、すべて国内で生産されていたので、何処の国で生産されているなど考える必要もありませんでした。
最近の日本のオーディオメーカーのほとんどが、スピーカーユニットを生産しておらず、台湾の企業などユニットメーカーに生産委託しています。
確かにスピーカーなどの工業製品などは、何処の国でも生産することができ、そこそこの音質の製品を製作することは可能だと思いますが、最高の音・音質を追求する高級スピーカーとなると他国で生産をしたものでは不十分です。
良いスピーカーを製作するには、身近場所で研究・開発できる施設が必ず必要になってきます。
他の工業製品であれば、設計した機能が動作すれば良いのですが、オーディオは、良い音を追及するという人の感性の部分を扱う芸術的な要素が重要になってきます。
スピーカーを製作するにあたり、出来上がったユニットを何度も何度もチェックして、改良や調整を繰り返していく必要があります。
高級スピーカーが、他社のユニットを箱に入れるだけで出来上がることなどありえません。
もし、他社のユニットを箱に入れるだけで高級スピーカーとしているのでは、そのスピーカーは本質的に高級スピーカーとはいえないと思います。
趣味性の高いオーディオは、製作者の情熱や魂を込めた製品でありたいと考えています。
最高級スピーカーは、基本的に自社で研究・開発・生産することが、本当の意味で魂の入れた優秀なスピーカーが誕生することができるものです。
NS-5000は、日本の優秀なオーディオメーカーが久々に製作した最高級スピーカーなので完全国内生産のスピーカーであることを心から望みます。
なぜ、新しいNS-5000がNSX-10000を超えることができなかったのか?
Y社の新しく発売されたスピーカーNS-5000について、私自身の正直な感想とすればY社が過去に発売したNSX-10000を超えることはできなかったと思っています。
NS-5000とNSX-10000とは同じ土壌に立つことも、難しいだろう考えています。
NS-5000が、なぜこのような結果になったしまったのかを考えていきたいと思います。
NS-5000がNSX-10000を超えられなかった最大の原因は、Y社のスピーカー製作の経歴にあるのではないかと考えています。
Y社が、NSX-10000が発売してから10年を経過した時に、Y社を代表とする本格的なスピーカーであるNS-1000番台のスピーカーの製作を全て終了してしまいました。

Y社は、NS-1000番台のスピーカーの製作を終了した以後も多数のスピーカーを販売していますが、NS-1000シリーズのような本格的で高品位なスピーカーは皆無です。
Y社がNS-1000シリーズの生産を終了してNS-5000が発売されるまでの間に、海外の高級スピーカーのクリプッシュホーンの輸入代理店になることもありました。
NSX-10000を製造販売したオーディオメーカーのY社が、海外の過去の名器といえるスピーカーで設計が古典といえるクリプッシュホーンの輸入代理店になったことは、1980代のY社のスピーカーを知っている私には考えられない出来事でした。
Y社がクリプッシュホーンの輸入代理店になったことは、完全に自社での高品位なスピーカーの研究・開発。製造を諦めてしまったということになります。
このようにY社が、NS-1000シリーズの生産を終了してからNS-5000が発売まで一切の本格的なスピーカーの研究・開発をやめていたことが大きな問題で新しく発売されたNS-5000が過去のNSX-10000を超えられない原因だと思います。
一流のスポーツ選手が20年間休んだ後に再び登場して以前よりも良い成績を残せるなら、それは奇跡としかいいようがありません。
このことは、オーディオでもいえることではないかと思います。
20年という長い間、スピーカー製作を休止してしまうことは、20年前に長い間に継続してきたスピーカー製作の技術的なノウハウを全て失なってしまう、あるいは過去の技術を全て放棄してしまうことを意味します。
このようなことはY社が特別なのではなく、1980年代に活躍した多くの日本のオーディオメーカーにいえることです。
スピーカー製作を休んで問題となるのは、製品が日の目を見ない(新製品が発売されない)ということではありません。
休んでいるときに裏で製品を開発続けていたり製品の研究を重ねていたのなら、新製品の発売されなかったというだけで、さほど問題とはいえません。
しかし、休んでいる間に全く製品を研究・開発をやめて、かつての多くの技術者が遠のき20年を経過してから突如として、新製品が登場したとすると、その新製品は、決して以前の蓄積された技術的なノウハウは引き継いだ製品とはいえません。
新しくY社から発売されたスピーカーは、かつてのNS-1000番シリーズの長年に培ったスピーカー製作のノウハウを継承したスピーカーでなく、全く一から新しく製作されたスピーカーだと考えられます。
それらを裏付けることは、NS-5000の音として現れており、音の完成度からすると、かつてY社から発売されたスピーカーのNSX-10000やNS-2000、NS-1000Xには遥かに及ばないように感じられました。
決してNS-5000の音が、良くないといっているのではありません。
総合的なスピーカーの完成度からすればNS-5000は、かつてのNSX-10000やNS-2000、NS-1000Xには及ばないといっているのです。
NS-5000は、過去のNSX-10000などのスピーカーと厳しく比べなければ、現在のスピーカーの中で高品位で音の良いスピーカーであるのは間違いことだと思います。
NS-5000は、NS-5000の前進であるNS-1000シリーズの生産終了からの長い期間空白を埋めることは不可能で、NS-5000はNS-1000シリーズとは別途の新たに設計・開発されたスピーカーであることは間違いないでしょう。
かつてのY社がNSX-10000やNS-2000、NS-1000Xという日本のメーカーは誇れるスピーカーを登場させることが出来たのは、前身にNS-1000Mという優れたスピーカーがあってのことで、NS-1000Mから得た製作の技術的ノウハウなどが引き継がれて、新しくNS-2000という優れたスピーカーを登場させることができたものです。
NS-2000以降にはNS-1000X、NSX-10000へと繋がっていったといえます。

スピーカーの名機といわれたNS-1000Mの登場も、いきなり登場したのではなく初期のY社のNS-30というスピーカーから長いスピーカー製作の歴史があります。
その長い歴史の中のスピーカー製作の技術的なノウハウの蓄積が、NS-1000Mという名機を世の中に登場させたものだといえます。
新しくY社から発売されたスピーカーNS-5000には、残念ながら長い歴史の中のスピーカー製作の技術的なノウハウの蓄積はありません。
コンピュータの性能の向上したことにより、以前よりも遥かに高度なシュミレーションを駆使してスピーカーを製作したとしても、実際にスピーカーを製作を続けることで得た技術的なノウハウには到底及ばないことだと思います。
新しくY社から発売されたスピーカーは、Y社の新たな考えのスピーカーとして誕生したばかりの製品で、かつてのNS-10000やNS-2000、NS-1000Xのような高い完成度に至には、今後もY社がスピーカーを製作し続けスピーカー製作のノウハウを蓄積していく必要があります。
Y社は、新しく発売されたNS-5000を決して単発で終わらせるのでなく、今後も継続して研究・開発していくことが大変重要だと思います。
今後も、NSと名乗る高品位のスピーカーを継続して製作していくことで、スピーカー製作の多くのノウハウを独自に蓄積していくことで、本当の意味で初めてNS-10000やNS-2000、NS-1000X以上の完成度の高いスピーカーを登場させることが出来るでしょう。
NS-5000の登場がきっかけとなり、Y社の高品位なスピーカー製作を継続していって欲しいものです。
今後のY社のNS-1000番を名乗るスピーカーに大いに期待したいと思います。