File No.69-8  CD(コンパクトディスク)が登場した時のこと(8) -コラム-

ディジタル録音の歴史について(3)解説しています。

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File No.69 / 08

ディジタル録音の歴史について(3)

▼X-12DTC

<ディジタルレコーディングで最も貢献したメーカーは、CDの開発した日本のソニーだと思います。

1972年、NHK(日本放送協会)の技術研究所長からソニーに移ってきた中島平太郎は、NHKで初めてディジタル録音機の試作品を成功させてから、ディジタル録音の実用機への実現に野望を持ってました。

しかし当時のソニーは、半導体の製造には巨額の投資を必要とし、大手の半導体メーカーに太刀打ちできないと判断したために、半導体の製造から撤退したばかりでした。

そればかりではなく、ソニーが1967年から開発してきたディジタル卓上計算機『SOBAX』の採算性から撤退を決めていた時期でもあり、社長の井深は、ディジタル製品の開発には距離を置くという姿勢がありました。

それでも中島は、NHKで初めてディジタル録音機を試作したこともあり、その時はノイズ混じりであったディジタルの音でしたが、その感動は忘れられなく、必ず実用になるディジタル録音機を完成させる夢を諦めることはありませんでした。

そしてソニーに入社してから2年が経過したごろから中島平太郎は、ディジタルはやらないという社長の井深の方針に反して、こっそりとディジタル録音機の研究・開発を始めます。

そして、ついに1974年アナログ音をディジタル記録する方式、PCM(pulse code modulation)、記念すべきソニーのPCM録音機第1号機の『X-12DTC』を完成させます。

SONY X-12DTCの写真
SONY X-12DTC

『X-12DTC』は、2インチテープを利用した固定ヘッドを56チャンネルという大型冷蔵庫並みの大きさもあり、サンプリング周波数が52kHz、量子化13ビット直線、2chの試作機でメカニズムだけで250Kgもある巨大な録音機でした。

『X-12DTC』は、巨大すぎて決して実用的ではありませんでしたが、多くの人たちにディジタル録音の音の素晴らしさを知ってもらうには十分に貢献しました。

『X-12DTC』が登場した時点ではPCM録音の将来の可能性を見せることが第一目的だったので、サンプリング周波数、量子化の標準化の規格は考えられてなかったと思いますが、後にCDなどのサンプリング周波数44.1kHzと量子化16bitの規格に大きく貢献したものだと思います。

▼PCM-1

中島の夢を実現した『X-12DTC』の試作機の成功から、次は実用になる大きさを模索して、当時ソニーが家庭用ビデオとして販売していたベータマックスに目を向けるようになりました。

ビデオデッキの映像記録周波数は、アナログオーディオの約200倍〜300倍以上もあり、ディジタル記録が可能であるのではないかと考えました。

そこからベータマックスを使用して、ディジタル録音を実現する為に研究を始めます。

ベータマックスの映像記録部を使いデジタル音声を記録・再生させるために、膨大な信号処理を行う回路を製作しました。

そして、ついに完成したのが『PCMプロセッサー』である。

『家庭用の規格のVTR』と『PCMプロセッサー』を繋ぐことでデジタルオーディオテープレコーダーシステムを構築するという画期的なシステム誕生の第一歩の踏み出します。

1976年に完成した『家庭用の規格のVYR』と『PCMプロセッサー』によるデジタルオーディオテープレコーダーシステムをオーディオフェアに展示すると、周りには二重三重の人だかりができ、このソニーの新しいディジタルオーディオシステムに多くの人が大変興味を示しました。

その翌年の1977年9月に、このPCMプロセッサーは『PCM-1』として商品化して販売されました。

SONY-PCM-1の写真
SONY PCM-1

『PCM-1』は、VTRを利用してデジタル録音・再生が行える世界初の家庭用(コンシューマ)製品で価格は48万円もする超高価な製品でしたが、一般家庭のディジタル録音・再生の幕開けとなる画期的な出来事だったといえます。

2チャンネル、量子化13ビットでサンプリング周波数が、44.056kHzの『PCM-1』のスペックは、市販(ベータマックス)のビデオレコーダーの映像記録周波数に大きく起因したものだと思います。

『PCM-1』を購入した多くのユーザーに、新しいディジタルオーディオの音質に『とにかくクリアな音だ!』『ベールが1枚はがれた感じがする』という高評価を頂くことができました。

しかし、音質の高評価を遥かに上回る数の苦情が発生しました。

苦情の中には、新しい機器の使い方の間違いでノイズを拾ってしまったりするということも多く存在しましたが、最も重要な苦情は、ディジタル録音でのエラーによるノイズの発生でした。

ディジタル録音は、アナログとは異なり誤りを補正しなければ再生音にエラーが発生してノイズが乗ってしまうので音になりません。

『PCM-1』は、ディジタルのエラーを修正する部分が、まだ実験的で未完成な部分が多くあり、多くのエラーを発生させてしまったことが実情だったと思います。

ソニーは、『PCM-1』の苦情の経験から多くを学び、次の製品のエラー修正技術の向上に役立てました。

その後、『PCM-1』を使用して、直径30cm光ディスクにディジタル記録する『デジタルオーディオ・ディスク』の実験を行った時に、エラーによってまともな再生ができなかったという失敗が、ソニーは、ディジタルのエラー修正技術を他社に先駆けて研究したことが、後のオーディオに革命を与えたコンパクトディスクの登場に繋がっていきます。

CDの規格が、最終的にサンプリング周波数44.1kHzと量子化16bitの規格に統一に向かったことは、ソニーのディジタル録音技術が、当時普及しているVTRを利用した方法から研究がスタートして進んでいったことが、大きく起因しているものだと考えられます。

DAT登場前のディジタル録音 つづく


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