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真空管アンプには基本的に2種類の方式がある。
真空管オーディオアンプには、シングル・アンプ、プッシュプル・アンプ、差動プッシュプル・アンプ、OTLアンプ、超三極接続アンプなどいろいろな方式が存在します。
回路方式の違いなども考えると、完全な分類は難しいかも知れませんが、深く追求していくと話がややこしくなるので、ここでは2種類の方式の真空管アンプだけピックアップして考えてていきたいと思います。
シングル・アンプ、プッシュプル・アンプ、差動プッシュプル・アンプ、OTLアンプ、超三極接続アンプのなかでOTLアンプ、超三極接続アンプは少し高度でマニアックなので省きます。
ここでプッシュプル・アンプと差動プッシュプル・アンプは、厳密には異なるのですが、二本の真空管を互いに動作させることが同じということで、差動プッシュプル・アンプを強引にプッシュプル・アンプとして考えるようにします。

よって、真空管アンプには、シングル・アンプとプッシュプル・アンプの基本的に2種類の方式が強引に存在するということにします。
シングル真空管アンプ
シングル真空管アンプは、基本的に1本の真空管を動作させて信号を増幅させる方法で大変シンプルな方式です。 (実際のシングル真空管アンプには、全段にプリ管と後段に出力管が必要になるので、真空管1本でドライブするという意味ではございません。)
回路が大変シンプルで、滑らかで大変美しい音がするので真空管オーディオファンには大変人気のある方式です。
シングル真空管アンプの実力を最大限に発揮するには、真空管の内部抵抗の少ない直熱3 極管という大昔に製造されたオーディオ増幅管が必要というオーディオファンも多くいます。
良く出来たシングル真空管アンプの良いところは、音が大変繊細で滑らかで美しく、シングルアンプしか得れない独自の柔らかい音場感と上品な音質が楽しめます。

私の真空管アンプの個人的な思いでは、半導体アンプの絶頂期の1980年代後半に百貨店のオーディオ販売店に行ったときのことです。
百貨店の誰もいないオーディオルームでダイアトーンの超高級小型2Wayスピーカーで音楽が流されていました。
正直、当時真空管アンプに興味など全くなく、ただ新しく発売されたダイアトーンの超高級小型2Wayスピーカーの音に興味があっただけで、外の窓から百貨店のオーディオルームを覗いたとき、目的のダイアトーンの超高級小型2Wayスピーカーが飾ってあるのが見えたので勝手にオーディオルームの中に入りました。
そのとき周りには誰もいませんでした。
そこでダイアトーンの超高級小型2Wayスピーカーが、今まで聴いたことのないような美しく上品で大変リッチな音で鳴っていたことに驚かされました。
アンプは何だろうかと確認したとこころ、ウエスギというメーカーの真空管アンプでした。
確か、シングルアンプだったように思います。
そのとき初めてオーディオには、自分が求めていた高密度・高解像度、ワイドレンジ再生の音とは全く違う、美しく上品でリッチ感のある音という別の世界があることを知りました。
その後も真空管アンプは、何度の視聴してきましたが、私自身が本当の意味で真空管アンプの音に興味をもって魅力を感じたことは、後にも先にもあの時の百貨店の誰もいないオーディオルームで聴いたときの真空管アンプの音でした。
恐らく、もっと良い音の真空管アンプに出会っているのかも知れませんが、そのときの真空管アンプの音の衝撃と感動したことが、今でも忘れることは出来ません。
お話をシングル真空管アンプに戻しますが、シングルアンプは美しく魅力的な音がするのですが、プッシュプル真空管アンプに比べ、出力が取りにくいのと、また、プッシュプル真空管アンプと同じようにアウトプットランスを使用しているのですが、シングル増幅ゆえにトランスの直流磁化の問題が発生します。
このシングルアンプのトランスの直流磁化は、低音の周波数再生に劣化に大きく影響します。
そのためシングルアンプのトランスは、直流磁化の影響をうけないように巻線が工夫されており、同じ出力でもシングルアンプの方がプッシュプルアンプのトランスよりも大型で高価にるということを意味します。
アウトプットトランスは、真空管アンプの部品で最も高く、ステレオで2個必要になるので、真空管アンプのトータル価格に大きく影響します。
つまり同じ出力の真空管アンプであれば、シングルアンプの方が価格が高なり高価になるということになります。
またどのようにトランスは直流磁化の影響をうけないように巻線を工夫しても、トランスの直流磁化を完全に無くすことはできないので、基本的にシングルアンプの低域特性は、プッシュプルアンプより劣ることになります。
しかし、オーディオが奥が深いのは、だからといってシングルアンプの音が、プッシュプルアンプの音に劣るとは限らないことです。
むしろ真空管アンプの好きなオーディオファンは、シンプルなシングル真空管アンプの音を好む人が多いことも事実であり、オーディオの音の難しさでもあり楽しさでもあります。
プッシュプル真空管アンプ
真空管アンプには、シングル真空管アンプ以外にプッシュプル真空管アンプというものがあります。
シングル真空管アンプでは出力を大きくするのが難しいために、プッシュプル真空管アンプというものが考えられたものだと思います。
プッシュプル真空管アンプでは、2つの真空管を互い違いに使用して使うので、シングルに比べ理論上は2倍の出力が得られることになります。
実際ににはロスが発生するので2倍の出力とまではいきませせんが、シングルに比べ出力が多く取れるのは間違いありません。
プッシュプル真空管アンプは、シングルよりも出力が多くとれるのですが、真空管を2つの真空管を互い違いに使用するために真空管が単純に2倍必要になり、シングルよりも回路が複雑になります。

プッシュプル真空管アンプは、左右の動作でトランスの直流磁化を打ち消すので、低域特性がシングル真空管アンプよりも低域特性が良くなリ、アウトプットトランスのサイズもシングルよりも小さく出来るメリットがあります。
真空管アンプでアウトプットトランスは、最も高価な部品の1つなので大きなメリットになります。
良いことばかりと思われるプッシュプル真空管アンプですが、真空管アンプを長く愛用しているオーディオファンには、プッシュプルの音は、パワーがあっても音が薄く感じられるということで、シングル真空管アンプの方が依然として人気があります。
なぜ、プッシュプル真空管アンプが、シングル真空管アンプよりもパワーがあっても音が薄く感じられることというようなことが言われるのは、パワーを稼ぐために真空管をAB級動作にしなければなく、定かではありませんが、出力波形のつなぎ目の歪みを100%解消するのが難しいのではないかと考えられています。
この出力波形を解消するように考えられた全段差動A級プッシュプル真空管アンプというものがあります。
この全段差動プッシュプル方式は、A級動作なので出力に関してはプッシュプル方式には及びませんが、あえてプッシュプル方式の出力を殺してまで歪みの少ない品位のある音を真空管アンプに再現しようとしたものです。
普通のプッシュプルアンプでは、左右の動作がバラバラに動作をする為に特性を揃えた真空管を用意する必要がでてきます。
しかし、完全に特性の揃った真空管は存在しなく、結局プッシュプルアンプは、特性の揃っていない真空管が左右バラバラの動作になってしまい歪みが増えてしまいます。
プッシュプル動作ではアウトプットトランスの直流磁化を防ぐ作用があり低域特性がシングルアンプより良くなるのですが、実際には左右の特性の揃っていない真空管がバラバラに動作する環境では、低域の動作が疑わしくなります。
その欠点を補うために、2つの真空管を定電流回路で縛ることで動作の安定を求めたものです。
差動プッシュプル方式は、左右の真空管が別々の動作することができないので、真空管の特性が厳密に揃っていなくても問題になりません。
唯一問題があるとすれば、差動プッシュプル方式はA級動作しか出来ないので、出力が大きく取れないことです。
しかし、よほどの事情がない限り真空管アンプに大きな出力を求める必要はないと思われ、非常に現在的な優れた真空管の使い方だと思います。
このA級差動プッシュプル方式は、昔から考えはあったのですが、論理的に全段A級差動プッシュプル真空管アンプの優れたことを説明して普及させたのは、『情熱の真空管』の著者のPさんです。
恐らくPさんがいなければ、全段A級差動プッシュプル真空管アンプというのは、普及しなかったのではないかと思われ、それぐらいPさんは真空管アンプの発展の貢献した人物だと思います。
本当にPさんには頭が上がりません、感謝感激です。