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真空管オーディオアンプを求めてしまう理由
長々と真空管オーディオアンプについて語ってきましたが、最後に多くのオーディオファンが現在に至って真空管オーディオアンプを求めてしまう理由について考えていきたいと思います。
現在において多くのオーディオファンが昔の増幅素子の真空管を使用した真空管オーディオに興味を示すのは、真空管アンプの音が良く魅力があるという理由も考えられますが、本当はもっと別の理由があるのではないかと考えています。
確かに真空管アンプの音には、魅力があるでしょう。
しかし、多くの人たちが真空管アンプを求めるのは、音・音質以外のところに存在するのではないかと思います。
現在は、電子機器というものが昔と比べて考えられないぐらいの発展をしており、今後も凄いスピードでの発展が予想できます。
特にコンピューターの処理速度は、かつては想像も出来なかったスピードまで上がってきていることは間違いない事実です。
人類の次の目的として、AI(人口知能)や完全自動化への道へ進んでいます。
今後ますますAI(人口知能)化が進んでいき、あらゆる情報がAIによって処理されて人にとって有用な情報のみが自動に入手できる時代が、直ぐそこまでやってきているように感じられます。
一方、完全自動化が進むにつれて、あらゆる手間のかかる作業から開放されるのは近いかも知れません。
既に、自動運転の自動車が、街中を走りつつある時代になっています。
便利さや合理性がますます進み、人類はこれまでにない豊かな生活がやってくることが大きく期待されていることでしょう。
オーディオでは、何もしなくても自動で自身の好む音楽を自動で再生したり、今後自身が好まれるだろうと思われるアルバムなどを、AIが自動で知らせてくれたりと、ますます便利になっていくものだと考えられます。
人類には、便利で素晴らしい未来が、直ぐそこまで迫ってきているように感じられることでしょう。
現在、AI(人口知能)や完全自動化を大企業の先導によって、進められつつあります。
本当に、私たちはAiや完全自動化によって素晴らしい未来が待っているのでしょうか?
どのような未来が訪れるかは、誰にもわかりません。
現在のオーディオには、ハイレゾ音源やディジタルアンプが登場するなど、これまでの技術と比べることが出来ないぐらい高度に発展した時代になっています。
音楽をききたいと思えばインターネットの音楽配信サイトでダウンロードすることで簡単に目的の音楽を入手することが可能になり、直ぐに楽しめるようになりました。
それだけ簡単で便利になった今このとき、再び20世紀の骨董品といえる増幅素子の真空管を使用した真空管オーディオアンプというものに多くのオーディオファンが興味をもつようになったことは、考えられない現象だといえます。
真空管アンプは、動作中に真空管に触れれば火傷する危険もあり、大変な高電圧を利用するので感電の危険もあります。
現在の高度に発展したオーディオの状況で、それでもなお非常に不便で扱いにくい過去の遺物ともいえる真空管式アンプを求めるのはそれ相当の理由があるものだと思います。
『真空管オーディオアンプの音が良いから』
『真空管オーディオアンプの音が好きだから』
確かにそのような理由も、一理あるでしょう。
しかし、そのような理由だけで、非常に不便で扱いにくい真空管オーディオアンプに熱い情熱を注げることには限界があるように思います。
私たちは、便利で合理的で無駄のない世界に向かって進んでいることに大きな希望をもっていることと同時に、心のどこかで本能的に反発をしているのではないでしょうか。
AI(人口知能)自動運転、完全自動化によって、便利になることで人類を豊かにしてくれることは間違いないことでしょう。
確かに合理的な追求により、無駄のない生活が約束されているのかもしれませんが、それらは全て、上から与えられた豊かさです。
上から与えられた豊かさだけでは、人は満足できない生物なのかも知れません。
人は便利さ以上に、求めるものがある生物なのかも知れません。
不合理・不効率である真空管アンプを求めることに、人の生きる上での本当の意味での幸福を無意識のの中で求めているように感じられます。
機械ではなく人でありたいいう本能が、真空管オーディオアンプというものを現在に求めているのかもしれません。
オーディオで真空管アンプ意外にもアナログレコードが再び人気になっていることからも、うかがえるように思います。
人が心がなく血の通っていない無情な機械のような存在であれば、AI(人口知能)自動運転、完全自動化によって、便利になるこを何の疑いもせずに歓迎できることだと思います。
しかし、人には血が通っており、嬉しいとき、悲しいときなど、様々な情や心の動きをもった生物で、AI(人口知能)だけでは満足できない生物なのかも知れません。
合理的なことや便利さになることに満足していると思っていても、心の奥底の中に計り知れない不安をもってしまっているようにも見えます。
オーディオファンにとって真空管アンプというものは、私たちの未来に対しての本能的な反抗が無意識の中で、真空管アンプを求めるという形になって現れているように感じられます。
人として生きていく上での
『本当の豊かさとは何か。』
『本当の幸せとはなんだろう。』
というものに一から考え直す必要がでてきているように思います。
オーディオファンが、真空管アンプというものを求める心の奥底の中に、その解答が見えてきそうです。
オーディオは人の感性を扱った電子機器なので、普通では気づかない人の見えない心が求める部分を、無意識に示しているように感じられるのは私だけではないと思います。
そのこことを考えるとオーディオファンは、未来の人の心の動きを誰よりも先に経験しているのかも知れません。
100年後のオーディオファンが、真空管を手にとって中を覗いている姿が、そこにありそうです。

おわり