File No.21 / 09
人間の感性は劣化する
1980年代の日本のオーディオの状況を経験した私にとって、タイムドメインがオーディオ界に大きな話題になったことに驚きを隠せませんでした。
私が、初めてタイムドメインというスピーカーを知って音を聴いて感じたことは、普通の小型のフルレンジスピーカーあるいは無指向性タイプのスピーカーにしか考えられず、それ以上でもそれ以下でもありませんでした。 それなのにオーディオファンがタイムドメインの音は、今までにない最高の音と評されることが全く理解不能でした。
最近のオーディオメーカーやオーディオファンの
『音に対する感性が劣化してしまった。』
のではないかと思います。 (偉そうに記載していることについて、申し訳ございません。)
タイムドメインを評価することについては、反対するものはありません。 私自身もタイムドメイン・スピーカーのアイデアは、ユニークで十分に楽しいスピーカーだと考えています。
しかしタイムドメイン理論で他のすべてのスピーカーを考えを否定するぐらいのパワフルな存在であるとは、いろいろなオーディオを見て視聴してきた私にとって到底考えられません。
タイムドメインが必要以上に良い評価された原因を私なりに考えてると、普通の価格帯に上質なスピーカーを見かけなくなったからではないかと思います。
かつては低価格なスピーカーでも本格的な音質のスピーカーが多数存在していましたが 、現在では低価格のスピーカーは似たり寄ったりで良くも悪くも価格相応なものが多いように思います。
ある古美術商のお話になりますが、本物の美術品の見分け方を習うことは、多くの本物の良いものを見ていると自然に分かるようになるということです。 周りに多くの良いスピーカーを見ていると、そのスピーカーがどれぐらいの製品か自然と理解できるようになるということです。
現在でも高価な高級なスピーカーの中には良い製品も存在しますが、これからオーディオを始める人にとっては高価すぎるように思います。
現在、手ごろな価格で販売されているスピーカーような安価な海外のスピーカーユニットを適当な箱にいれて製作された製品ではなく、1からスピーカーユニットを自社開発している製品があれば、タイムドメイン・スピーカーに持つイメージや考えが大きく変わっていただろうと痛感せざるえません。

そのような良いスピーカーが多く存在すれば、タイムドメイン・スピーカーのどのような理論的優位性を展開していても、ユニークなスピーカーの一部として見ることができたのではないか思います。
たくさんの価格相応あるいは価格以下の内容のスピーカーの中に囲まれて、それが普通になってしまっているところに新しく登場してきたタイムドメインスピーカーは、衝撃的だったのかもしれません。
オーディオファンは、良いスピーカーや良いオーディオをよく視聴してより感性を磨いて欲しいと思っています。
これはオーディオファンだけでは不可能なので、心あるオーディオメーカーに是非協力していただき、共に本格的なオーディオの世界を歩み支えていただきたいと心から願っております。
色づけのない音
タイムドメインス・スピーカーがは、色づけの少ないたいへん素晴らしい音質と評価されています。
しかし、私はタイムドメインス・スピーカーの色づけの少ない音が最も良い音であるということに疑問を感じております。
そもそも、色づけのない音など存在するのだろうか疑問があります。
なぜならスピーカーユニットをフローティング構造やエンクロージャーの影響受け難いデザインにしても、コーン型のフルレンジ・スピーカーユニットを使用している以上、コーン紙やフレームなどの影響を避けることは不可能だと考えられるからです。
タイムドメイン・スピーカーが、コーン型のフルレンジ・スピーカーユニット利用している限り、絶対にコーン型のフルレンジ・スピーカーユニットの影響は避けることはできません。
どのような方法のスピーカーでもコーン型のフルレンジ・スピーカーユニット使用している限りは、コーン紙やフレームの素材や構造の影響により必ず音にキャラクターが付きまといます。 どのように綿密にコーン紙を選定していっても、色づけのない音は実現できず素材のキャラクターから逃れることは不可能だということです。
したがってコーン紙の選定は、軽くて丈夫な素材の中から特有のキャラクラー付きにくい音が良いものを探すしか方法がありません。
コーン型のフルレンジ・スピーカーユニットは、コーン紙だけでなくフレームなどの影響も必ず受けるので、どのように設計しても音にキャラクターがついてしまうことは間違いのないことだと思います。
また、ユニットをフローティング構造やエンクロージャーの影響受け難いデザインにしても、全くエンクロージャーが音に影響しないことはありえません。
つまり色付けののない音というものは、設計者の音のイメージ以外には存在しないということです。
色付けのない音というものは実現できなく存在しないのなら、素材やフレームをなるべく色づけを感じにくいものを選定する努力をして、音の癖が少ない響きの良いエンクロージャーを利用してスピーカーを製作する方が良いのではないかと考えています。