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アーティストは、アナログ録音を求めるようになるだろう
現在ほとんどの音楽製作者たちは、ディジタル録音の恩恵を受けていることは間違いない事実だと思います。
アーティストも、多くの録音トラックの劣化が少なくミックスダウンできるディジタル録音は、理想のツールだと考えているかも知れません。
かつてのアナログ録音時代では、テープからテープへとミックスダウンすればするほど音質の劣化が免れず、常に音の劣化との戦いでしたが、ディジタル録音では、ミックスダウンにより音の劣化を心配する必要がなくなり、何百トラックの録音でも、基本的に無劣化でミックスダウンすることが可能になっています。 (厳密に言えばディジタル録音でもミックスダウンすれば、音の劣化はまぬがれませんが、SN比などのスペック的に劣化しないということを言っています。)
生まれた時からディジタル録音に馴染んでいる最近のアーティストたちは、アナログ録音など想像すら出来ないかも知れません。
しかし、現在でもアナログで録音された作品のアナログレコードなどが残っており、アナログというものは何であるかということを体験することが可能です。
アナログを知らない最近のアーティストたちが、アナログレコードの音を聴いたとき、どのように感じられるでしょうか。
アナログ録音を全く知らないアーティストたちが、アナログの音を聴いて『何だ!この音、悪いな!』と感じるアーティストは、恐らく少ないのではないだろうかと思います。
アナログというものが、想像した以上に音質が良いことに驚かれるのではないかと思います。
それ以上に驚かれることは、アナログの音に何が原因しているか分からないが、説得力のようなものが存在していることを感じ取るのではないでしょうか。
最新ディジタル録音でアルバムをリリースしているアーティストたちが、30~40年前にリリースされたアナログの音に率直に感じられることは、クオリティだけなら現在の自分たちのアルバムの方が勝っている、しかし、芸術作品として音を考えたとき、アナログの音には人を引き付ける何かがあると感じとることでしょう。
アナログ録音の音を聴いたプロのアーティストたちは、音質にも問題なく便利で編集も完璧にできるディジタル・レコーディングに、だんだん何かが欠けていると感じてくるようになると思います。
最初は、レコーディング機材(レコーディング・スタジオ)を変えたりして、作品の音を求めるようになるでしょう。
しかし、どのように最新の高性能のディジタル録音機材を変えてレコーディングしても、30~40年前のアナログ録音の音に存在している、口では説明できない説得力のような感覚的な部分が、ディジタル録音にはないことに物足りなさを感じるのではないでしょうか。
自身の作品を少しでも良い音で伝えたいと想うアーテストたちの気持ちが、昔のようなアナログ機材を使用して、自分の作品を説得力のある音で創って見たいという願望が涌いてくるのは時間の問題だと思います。
もし現在でも、昔のように最初から最後までアナログで処理できるスタジオがあれば、経済的に恵まれているアーティストなら飛びつくのではないでしょうか。

なぜなら、プロのアーティストであれば、より芸術性のある作品、音質を望み、他を優越できる芸術作品を制作出来るなら苦労はいとわないと考えられるからです。
作品をお金儲けの道具しか考えないアーティストであれば、より高い音質や芸術性を求めることはないと思いますが、自身の作品を真の芸術作品として残したいと思うアーティストであれば、アナログで録音することに興味があっても不思議ではありません。
最初の内は、最終ミックスダウンされた2トラックディジタル・マスターをアナログテープに複写して、複写したアナログテープをもう一度、ディジタルに変換することから始まるかも知れません。
このような少しクオリティを落すような無駄をしてまで、アーティストはアナログの音の品位を求めるようになるでしょう。
なぜならアーティストは、音のクオリティ以上に自身の作品の音の品位を求めるからです。
自身の作品の音の品位が向上させることが出来るならアーティストたちは、どのような方法でも実行するでしょう。
作品の音の品位を上げるこの方法が普通に行われるようになれば、次は全ての工程をアナログで処理して作品を制作して見たくなるのが、本物のプロのアーティストだと思います。
現在、ディジタル処理によってアナログの音をシュミレーションするような機器がありますが、そのような機器は音が暗くなるだけなので特殊な用途を除いて、プロのアーティストから支持されることは無いでしょう。
最高の芸術作品を最高の品位の音で残したいと考えるアーティストたちは、少なくないと思います。
アーティストたちの最高の芸術作品を残したい気持ちが、かつてのようなアナログで自身の作品を制作したいという気持ちに、心を傾けてしまうのではないでしょうか。
そのようなことからアーティストたちの今後は、合理性を超えた最高の贅沢といえるアナログ録音を望むようになってくるのではないかと思います。