File No.76 / 07
何も知らない方が、幸せかも知れない
高品位な製品、いや、本当に魂の込められた製品を手にとって堪能したことのない人たちにとっては、現在は、何でも安価に購入出来て、そこそこのクオリティを得ることが出来ので幸せな時代になったといえるかも知れない。
価格の問題では決してない。
現在の日本の人たちにとって、昔の日本、いやそんな昔ではなく、30年前ぐらい前の日本と言って良いだろう。
その時代の日本という時代を知らない若い人たちにとって、どうでも良いことかも知れない。
また、その時代に日本の家電製品に熱い想いを持っていなかった人たちには、ただ時代が流れすぎた結果にしか見えないかも知れませんが、私のように、日本のオーディオ、ビデオ、カメラなどの電化製品に憧れて、育ったものにとっては、今の日本というのは考えられない、いや認めたくないのです。
昔は、家電量販店に行けば、日本製品に溢れ、外国で生産された製品を見つけることは、大変難しい状況でした。
ヘッドホンは、90%以上、日本で生産されたものが販売されており、外国のヘッドホンを購入するには、オーディオを多く扱っている量販店やオーディオを専門に扱っているお店以外では購入することは難しかったと思います。
それぐらい日本には、日本生産の製品が溢れていました。
現在のようなブランドだけが日本で中身は外国生産のヘッドホンではなく、正真正銘、日本国内で生産されていたものです。
その時代の日本製品には、本当の意味で真面目さがあり、各メーカーの拘りというものが存在しました。
当然の結果として、当時の日本は、現在の日本より遥かに豊かでした。
現在の日本のような表面的に豪華を装って中身がないニセモノの豊かさではなく、かつての日本では国内で様々な製品を自ら生産できるという本質的な豊かさを持っていました。
私は、当時日本の家電製品を見ていると、このまま日本が進めは電子・電化製品では、世界は、日本に絶対に追いつかないだろうと思いました。
このまま日本は進んでいくと信じていたのです。
しかし1995年ぐらいから、日本のほぼ全てのメーカーは、グローバル政策を推進し、これまで国内で生産していた製品のほぼ全ての製造を海外生産に切り替えるようになりました。
日本企業のグローバル推進は、国内の生産工場を閉鎖してまで、製品を海外生産に切り替えるようになってしまいました。
同然ながら日本のメーカーは、あれだけ高度な製品を安価に生産できる技術を持っていたのに、現在ではローテクといわれるヘッドホンすら、日本国内で生産することは難しくなってきています。
そして日本の生産技術力は大きく低下し、国民全体の所得が少なくなり、経済成長は大きく低下しています。
現在の日本では景気が良い、いなざき景気越えなど、過去最高に景気が良いように報道されています。
昔の日本を知らなければ、景気が良いという状況を、そんなものかなと信じるかも知れません。
過去最高の景気!日本は最高に景気が良い!
『信じるものは救われる』、何も知らない方が、幸せかも知れません。
話を戻します。
日本企業が、海外で生産できるから日本に技術力があるとはいえません。
海外で生産するということは、あくまでも生産国にあるものです。
国内で設計が出来たとしても、実際に製品を製作できないなら、本当の意味で技術力を持っているとはいえません。
そのような設計だけ日本でするような企業は、数年も立てば、生産国の現地で設計までするようになっているでしょう。
つまり海外生産というものは、日本国内に技術力は何も残らなく、国内にはただ商社のような企業が残るだけになってしまいます。
良くオーディオや白物家電のようなものは、ローテクで何処の国でも生産できそうに見えますが、実際に製品を生産するということは本当に難しいものです。
事実、一見、ローテクに見えて簡単に見えそうなヘッドホンすら、強大な資本を持っている日本企業ですら日本に生産設備がないので簡単には日本国内で生産することは出来ません。
現に3万円から5万円以上もする高級なヘッドホンであっても、現在では国内で生産することは難しくなってきています。
国内での高級オーディオブームに乗って、国内生産のものが登場したとしても、法外な価格が付けられていいます。
国内で生産している時代に1~2万円ぐらいの価格のヘッドホンが、現在では国内生産したとしても10万円以上の価格が付けられるでしょう。
また、現在ではヘッドホンに日本製(made in Japan)の刻印がされていても、最も重要な部品のドライバーユニットは、実際に日本国内で生産されているかどうか分かりません。
ヘッドホンで最も重要な部品のドライバーユニットが海外生産なら、本当に日本製だと言えるのでしょうか。
そういう日本製が、現在の日本では当たり前になってきています。
ヘッドホンの日本国内生産で10万円以上するなら、性能が昔より遥かに向上しているかといえば、ほとんど変わることがなく、久しぶりに国内で生産に切り替えたことにより、思わぬ不良が見つかったりします。
製品というのは、継続して生産していかないと、技術は、どんどんと失われてしまいます。
最近は、日本生産だからといって、クオリティが高いとはいえなくなってきています。
世界からJapanクオリティといって、世界の人々から愛された日本製品は既に過去の存在になってしまいました。
あれだけ世界に信用されてきた日本製品は、今では日本に住んでいても購入することは出来ません。
これで本当に、日本に技術力があるのかと考えさせられます。
国内で完全に生産できることこそが、本当の意味で技術力があると言えると思います。
今回、AKG K240 Studioについて、新しい中国生産品とオーストリア生産のAKG K240 Studioは、型番が同じでも音が違い、全くの別物だといいました。

世界中が、グローバル化へと進んでいくことによって、各国の人々が本来持っていたプライドが薄くなってきているように思います。
お金さえ儲ければ、何でも良いというような世界は、本当の幸せを得ることは出来ません。
現在の世界の動きを見ていると、本当に寂しく感じてしまいます。
AKG K240 Studio(中国製)でも、昔のオーストリア生産の音・音質の品位を知らなければ、安価に購入できるようになったことを無批判で喜ぶことが出来たでしょう。
何も知らない方が、幸せだったかも知れません。
今後、AKG K240 Studioは中国生産が当たり前になっていき、かつてAKG K240 Studioがオーストリアで生産されていたことも忘れさられていくことだと思います。
そして、ヘッドホン製品に対してのメーカーのプライドというものを感じることもなく、最終的には何も感じなくなってしまうかも知れません。
それでもAKG K240 Studioは、オススメのヘッドホン つづく
